採用担当を昇給で引き止めるのと、新しく採るのはどちらが安いか
採用担当から退職の申し出があり、「月に数万円上げれば残ってくれるかもしれない」と考え始めた。一方で、後任を採るとなれば紹介手数料や求人広告費が頭に浮かびます。どちらが会社にとって安く済むのか、感覚では決めにくい場面です。
この記事では、引き止めるべきかどうかの判断には立ち入らず、費用の比較だけを扱います。判断の基準は採用担当から退職を申し出られた。引き止めるべきかで整理しています。ここでは、両方の費用を同じ表に並べて試算する手順を示します。
比べるのは月額ではなく、数年分の総額
昇給は「月2万円」のように小さく見えますが、一度上げた基本給は翌年以降も続きます。新規採用の費用は、採用の時点でまとまって出ていきます。月額と一時金をそのまま比べると、昇給側が安く見えます。
そこで、比べる期間を先に決めて、両方を同じ年数の総額に直すことから始めます。3年と5年の2通りで出しておくと、期間によって結論が変わるかどうかも確認できます。
| 費目 | 昇給で引き止める場合 | 新しく採る場合 |
|---|---|---|
| 直接の費用 | 昇給額×12ヶ月×年数 | 紹介手数料または広告費 |
| 連動する費用 | 賞与への連動分、社会保険料の会社負担 | 給与水準が上がる場合はその差額 |
| 見えにくい費用 | 他の社員への波及 | 立ち上がり期間、欠員中の損失 |
| 費用の性質 | 毎年続く(元に戻しにくい) | 採用時にまとめて出る |
昇給で引き止める側の費用
昇給額の累計
基本給を上げると、賞与が基本給の◯ヶ月分で決まる会社では賞与も上がります。社会保険料の会社負担も給与に比例して増えます。昇給額だけでなく、この2つを足した額が会社の年間負担です。
他の社員への波及
見落としやすいのがこの費用です。等級や給与テーブルがある会社では、採用担当だけを上げると同じ等級の社員との間に差が生まれます。給与の情報は、年末調整の書類や雑談などを通じて社内に伝わることがあります。差が知られた場合、同じ等級の社員にも合わせる判断を迫られることがあり、そうなると上げた給与は簡単には下げられません。
波及の可能性がある人数を、試算の段階で数に入れておくことが大切です。誰も合わせずに済む見込みなら0人、等級をそろえる必要があるなら該当者の人数を置きます。
新しく採る側の費用
採用費
人材紹介を使う場合の手数料は、理論年収(入社1年目に支払う見込みの年収)に料率を掛けて決まります。媒体で募集する場合は掲載料が中心です。経路ごとの詳しい内訳は採用担当の後任を人材紹介で採ると総額いくらかかるかで試算しています。
立ち上がり期間
着任した後任が、前任者と同じ量をこなせるまでには時間がかかります。その間は給与を払いながら、働きは一部にとどまります。この差額を費用として数えます。
欠員中の損失
退職から後任の着任までの空白期間には、採用業務を誰かが残業で埋めるか、外注するか、止めるかになります。止めた場合の損失の見積もり方は欠員を放置している損失を、いくらと見積もるかにまとめています。
同じ表に並べて試算する
以下はすべて「仮に」置いた数字による計算例です。自社の数字に置き換えて使ってください。
- 採用担当の年収は400万円(月給25万円、賞与は基本給の年4ヶ月分)
- 引き止めの昇給は月2万円、社会保険料の会社負担は仮に給与の15%と置く
- 波及は、同じ等級の社員2名に同額を合わせる場合を想定
- 新規採用は人材紹介で、年収400万円、手数料率を仮に35%と置く
- 立ち上がりは着任から3ヶ月、その間の働きを半分と置く
- 欠員期間は2ヶ月、その間の残業代や外注費を月20万円と置く
昇給側の年間負担は、昇給24万円(2万円×12ヶ月)+賞与連動8万円(2万円×4ヶ月)=32万円に、社会保険料4.8万円を足した36.8万円です。
新規採用側は、手数料140万円(400万円×35%)、立ち上がりの差額37.5万円(25万円×3ヶ月×1/2)、欠員中の費用40万円(20万円×2ヶ月)で、合計217.5万円です。後任の給与そのものは前任者の給与の置き換えなので、ここには含めていません。
| 比較する案 | 3年間の総額 | 5年間の総額 |
|---|---|---|
| 昇給で引き止める(本人のみ) | 110.4万円 | 184万円 |
| 昇給で引き止める(波及2名を含む) | 331.2万円 | 552万円 |
| 新しく採る | 217.5万円 | 217.5万円 |
本人だけの昇給なら、5年間でも引き止めのほうが安くなります。一方、波及を2名含めると3年の時点で逆転します。新規採用の費用が採用時にほぼ出し切りになるのに対し、昇給は年数とともに積み上がるためです。
安いほうが正解とは限らない理由
表の数字だけで決めにくい理由が3つあります。
1つ目は、引き止めが退職の先送りに終わる場合です。昇給で残った担当者が1〜2年後に改めて辞めると、それまでの昇給分に加えて新規採用の費用もかかります。辞めたい理由が給与以外にある場合、昇給だけでは理由が解消されないことがあります。
2つ目は、引き止めても属人化が残ることです。採用業務が1人に依存した状態のまま続けば、次に抜けたときにまた同じ空白が生まれます。新規採用は、手順を書き出して業務を引き継ぐ機会にもなります。
3つ目は、波及の費用が試算の時点では読み切れないことです。合わせる人数を0人と置いても、後から差が知られて調整が必要になる場合があります。
試算は「どちらが安いか」を決めるためというより、引き止めにいくらまでなら出せるかの上限を決めるために使うと役立ちます。上限を超える条件を求められたら、新規採用の準備に切り替える目安になります。
新規採用の費用を見積もる段階で
新しく採る側の費用は、後任に経験者を求めるかどうかで大きく変わります。当社の採用担当引き継ぎ代行は、採用担当の経験がない方を後任に採り、当社が育てて引き継ぐ前提で進めます。止まった求人の復旧、後任の採用、引き継ぎと業務改善までを含め、料金プランは復旧2ヶ月80万円・標準4ヶ月200万円・完全6ヶ月300万円(すべて税別・広告費込み・分割可)です。上の表の「新しく採る」の行に置いて比べることもできます。
どちらの案を取るにしても、まず現状を把握するところからです。採用ストップ診断(媒体アカウント・契約・進行中の応募者の棚卸し)までは無料で行っています。LINE公式からご相談ください。