引き継ぎの進み具合を、1枚で可視化する
退職する採用担当と後任(あるいは暫定の受け手)が週に何度か打ち合わせをしていて、本人たちは「引き継ぎは進んでいます」と言う。ところが最終出社日の翌週になって、媒体の掲載を止める操作が分からない、エージェントへの返信を誰も出していない、といったことが次々に出てくる。よくある話です。
原因は、引き継ぎの進み具合を誰も数えていないことにあります。打ち合わせの回数は数えられても、「どの項目が、どこまで渡ったか」は本人たちの感覚の中にしかない。これを1枚の表に出すだけで、残り時間で何が終わり、何が終わらないかが見えるようになります。この記事では、その表の作り方と、週15分で回す運用、そして終わらなかった項目の扱い方までを整理します。
「説明した」を完了にすると、退職日の翌週に崩れる
引き継ぎの進捗が狂う最大の理由は、完了の定義が「前任者が説明したかどうか」になっていることです。説明を聞いた側は、その場では分かったつもりになります。ところが実際に管理画面を開くと、ログインの手順でつまずく、画面の表示が説明と違う、権限がなくてボタンが押せない、といったことが起きます。
ですから、完了の判定は後任側に置きます。後任が、前任者に聞かずに一人でその作業を最後までやり切れたときに初めて完了とする。この定義にすると、進捗は正直になります。見た目の進みは遅くなりますが、退職日の翌週に崩れるリスクは下がります。
もうひとつ、「説明は受けたが、まだ自分ではやっていない」という中間の状態を記録しておく必要があります。この状態の項目が多いまま退職日を迎えると、表面上は引き継ぎ済みに見えて実態は未習得、という最悪の形になります。だから状態は2段階ではなく3段階で持ちます。
1枚の表の作り方
縦に項目、横に状態の3列。これだけです。Excelでも紙でも構いません。
| 項目 | ①未着手 | ②説明済み | ③一人でできた | 期限 | メモ |
|---|---|---|---|---|---|
| 媒体Aの原稿編集・掲載停止 | ✓ | 10/24 | 権限付与待ち | ||
| 媒体Bの応募者への返信 | ✓ | 済 | — | ||
| 応募者管理表の更新 | ✓ | 済 | — | ||
| エージェント3社への連絡 | ✓ | 10/31 | 窓口不明1社あり | ||
| 面接日程の調整(面接官の押さえ方) | ✓ | 10/24 | 11月で1回実施予定 | ||
| 請求書の確認と経理への回付 | ✓ | 11/7 | 月末に実物が出る |
チェックは1項目につき1箇所だけ。②から③へ進んだら②のチェックは消します。進んだ項目の数ではなく、③に入った項目の数だけを見ます。
縦の項目はどこから持ってくるか
項目の中身は別の話なので、ここでは深追いしません。何を書き出すべきかは採用業務の属人化を解く。引き継ぎ書に必ず書く12項目に整理してあります。その12項目を、実際に手を動かす単位まで割ってから縦に並べてください。
割り方の目安は、1項目が30〜60分で実演できる大きさです。「媒体運用」のような粒度では③の判定ができません。「原稿を直して反映させる」「掲載を止める」「応募者に返信する」のように、終わりが分かる動作まで下ろします。全部で20〜40行くらいになることが多いですが、行数が多すぎると運用が続かないので、応募者と契約に関わる項目を上に寄せ、それ以外は後回しで構いません。
期限欄には退職日ではなく、実行できる日を書く
期限欄に全部「最終出社日」と入れると、表が役に立たなくなります。書くのは、後任がその作業を実際にやる機会が来る日です。月次でしか発生しない請求書の処理なら、翌月の発生日。面接の設定なら、次に面接が入る日。機会が退職日までに来ない項目は、その時点で③に到達しないことが確定します。それが早く分かることに意味があります。
週1回15分で埋める
表は作った翌週から放置されがちです。更新を会議の議題にせず、固定の短い枠にしてしまうのが続けやすいやり方です。
- 曜日と時間を決める(例:毎週金曜の16時から15分)
- 出席は前任者・後任・管理部門の責任者の3人
- 進捗の説明はさせず、③に入った項目だけを読み上げる
- ②のまま2週続いた項目は、実行する日をその場で決める
②で止まっている項目を責めないことが大事です。止まる理由は本人の怠慢ではなく、実行する機会がまだ来ていない、権限が渡っていない、といった段取りの問題であることが多い。15分の目的は、詰めることではなく、残り時間と残り項目を全員が同じ数字で見ることです。
採用全体の数字の見方は採用の進捗を週15分で確認するための数字で扱っています。引き継ぎ期間中は、この表の③の件数を、そこに1行足すだけでも十分です。
退職日までに終わらない項目を、どう諦めるか
残り2週間を切ったあたりで、③に届かない項目が必ず残ります。ここで全部を追いかけると、重要な項目の仕上げが薄くなります。諦める基準を先に決めておくと判断が早くなります。
| 残った項目の性質 | 退職日までの扱い | 代わりに用意するもの |
|---|---|---|
| 止まると応募者や内定者に不利益が出る | 最優先で③まで持っていく | 時間が足りなければ管理部門が同席して一緒に実施 |
| 外部に期限がある(契約更新、請求、届出) | ③は諦めて、期限と連絡先だけ確定させる | 期限一覧と、誰に聞けばよいかのメモ |
| 月1回など頻度が低い | ③は諦める | 画面録画か手順メモ。初回は外部または上長が伴走 |
| 年1回以下、または今期は発生しない | 諦めてよい | 項目名と「未引き継ぎ」の記録だけ残す |
諦めると決めた項目は、表から消さずに「未引き継ぎ」と書いて残します。消すと、数ヶ月後に誰も存在を知らない業務として再発見されることになります。頻度の低い作業は、説明より画面録画のほうが残しやすい場合があります。手順書を書く時間がないときの残し方は手順書を書く時間がないときの、画面録画による引き継ぎにまとめています。
退職日の翌日に、この表はどうなるか
表の役目は、退職日で終わりません。終了時点のスナップショットを保存し、残った②と未引き継ぎの項目を、後任の当面の課題リストとして引き継ぎます。
その後は、月1回の点検に合流させます。③まで到達した項目も、数ヶ月後に権限が切れていたり、手順が変わっていたりすることがあります。点検の枠組みは引き継ぎ後に運用が元へ戻らないための月次点検で扱っているので、この表の未完了行をそこへ持ち込む形にすると、管理が二重になりません。
この進捗表は、引き継ぎそのものを速くする道具ではありません。終わらないものが終わらないまま退職日を迎える事態を、2週間前に気づける道具です。気づければ、優先順位を変える、外部に出す、期限だけ押さえる、といった手が打てます。
進み具合が見えない状態が続いているなら
表を作ってみたものの、②のまま動かない行が半分以上を占める。あるいは前任者が既にいなくて、縦の項目すら書き出せない。そうした状態は、社内の時間が足りないことが原因であることが多く、表を増やしても解決しません。
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まずは現状を数えるところからで構いません。媒体アカウント・契約・進行中の応募者の棚卸しを行う「採用ストップ診断」までは無料です。LINE公式アカウントからご相談ください。