採用のルールを社内規程として文書にしておくべきか
前任の採用担当は、紹介で来た人も通常の選考に乗せていました。後任は「社長の知り合いなら面接は1回でいい」と考えています。給与の上限も、前任は部長に確認していましたが、後任は自分で決めてよいと思っている。どちらが正しいのかを、社内の誰も言い切れない。担当が替わったとたんに、こうした食い違いが表に出ることがあります。
原因は、ルールが「前任者のやり方」として存在していただけで、会社の決めごととして書かれていなかったことにあります。とはいえ、採用業務のすべてを社内規程にすると、媒体の画面が変わるたびに規程を改定する羽目になります。この記事では、規程として文書にする項目と、手順書に置けば足りる項目の切り分け方を整理します。
規程と手順書は、変える人と変える頻度が違う
規程は「会社として何を決めているか」、手順書は「それをどうやって実行するか」を書くものです。両者を分ける基準は、内容の重要度よりも、変更の頻度と変更の承認者で考えると線が引きやすくなります。
| 観点 | 社内規程 | 手順書 |
|---|---|---|
| 書く内容 | 会社としての決めごと | 作業の進め方 |
| 変わる頻度 | 年に数回以下が目安 | 媒体やツールが変わるたび |
| 変更できる人 | 決裁者(社長・管理部門長) | 担当者本人 |
| 担当交代の影響 | 受けない状態にしたい | 後任が書き換えてよい |
担当が替わるたびに運用が変わってしまうのは、本来は決裁者が決めるべき事柄を担当者が決めていたからです。そのため、担当者の裁量で動かしてはいけない項目だけを規程に移すという発想で考えると、文書は短く済みます。
規程に置く4つの項目
人数枠と決裁
何人まで募集してよいか、誰の承認で募集を始め、誰が内定を決めるのか。この線が担当者の頭の中にあると、後任が独断で募集を始めたり、逆に誰の許可も取れずに止まったりします。決裁者と代理者の決め方は採用の可否を誰が決めるかを、紙に1枚で決めておくで詳しく扱っています。規程にはその結論、つまり「募集開始と内定は◯◯の承認を要する」という一文と、代理者の定めだけを書けば足ります。
給与レンジ
職種ごとの金額そのものを規程に書くと、改定のたびに手間がかかります。規程に書くのは「提示給与は職種別に定めたレンジの範囲内とし、上限を超える場合は◯◯の承認を要する」という決め方のルールです。レンジの表は別紙にしておけば、金額だけを見直せます。応募者を集めたい担当者が上限を少しずつ上げていき、既存社員との差が開くといった事態も起きにくくなります。
縁故・紹介応募の扱い
社員や役員の紹介、取引先からの紹介で来た人を通常の選考に乗せるのかどうか。この点は担当者の立場では断りにくいため、会社の決めごとにしておく意味が大きい項目です。「紹介による応募も書類選考と面接を経る」「紹介者は選考に関与しない」といった原則を書いておくと、後任の担当者が板挟みになりにくくなります。
応募書類の保管期間
不採用者の履歴書をいつまで保管し、いつ廃棄するかは、担当によって判断がぶれやすい項目です。期間の決め方は不採用者の応募書類は、いつまで保管していつ捨てるかで整理しています。規程には、自社で決めた期間と廃棄の責任者を書きます。
手順書に置けばよいもの
次の項目は担当者が日常的に手を入れるものなので、規程に入れると動きが重くなります。
| 項目 | 置き場所 | 理由 |
|---|---|---|
| 媒体の操作方法 | 手順書 | 画面や仕様が媒体側の都合で変わる |
| 応募者へのメール文面 | 手順書 | 言い回しの改善は担当者の裁量でよい |
| 日程調整の進め方 | 手順書 | 面接官の顔ぶれで変わる |
| 応募者管理表の列と更新ルール | 手順書 | 運用しながら直すもの |
| 選考の回数と合否の決め方 | 規程に原則、手順書に詳細 | 原則は固定、運用は変わる |
選考の回数のように、原則と運用の両面を持つ項目もあります。この場合は「最終面接は決裁者が行う」といった原則だけを規程に置き、面接の進め方は手順書に回します。手順書の書き始め方は採用フローを手順化するとき、最初に書くべき5項目が参考になります。
1〜2ページで始める構成
最初から網羅的な規程を作ろうとすると、決めきれない論点で止まります。まずは次の6項目、1〜2ページで始めて、運用しながら足していくほうが現実的です。
- 目的と適用範囲:中途採用に適用すること、正社員・契約社員など対象とする雇用区分
- 採用枠と決裁:募集開始・内定の承認者と代理者
- 給与の決め方:別紙のレンジに従うこと、上限を超える場合の承認者
- 紹介応募の扱い:通常の選考を経ること、紹介者が関与しないこと
- 応募書類と個人情報:保管期間、廃棄の責任者、保管場所
- 改定の手続き:誰が改定でき、改定時に誰へ周知するか
6番の改定手続きは省略されやすい項目ですが、これがないと規程が古いまま残ります。誰が変えてよいかを書いておくことで、規程を担当交代の影響から切り離せます。
書きすぎないことと、就業規則との関係
規程を厚くしすぎると、採用の専門家ではない読み手、つまり社長や管理部門の責任者が中身を把握できなくなります。読まれない規程は、結局は担当者の解釈で運用されてしまいます。1ページ目だけ読めば、担当者の裁量でやってよいことと、承認が必要なことの境目が分かる。この状態を目標にしてください。
もう一点、社内規程を新たに定めるときは、就業規則や既存の規程とどう位置づけるかを確認する必要があります。採用規程を就業規則の一部として扱うのか、別の社内ルールとして扱うのか、また試用期間や労働条件に関わる記述が就業規則と食い違わないかは、会社ごとの事情で判断が変わります。作成前に顧問の社会保険労務士などの専門家へ確認してください。 規程の骨子を社内で書き、専門家には条文の整合性を見てもらう順番にすると、相談の時間も短く済みます。
規程は、後任に渡す「動かさない部分」
規程があると、後任は「ここは自分で決めてよい」「ここは承認を取る」と迷わずに動けます。手順書は後任が育てていくもの、規程は会社が守るもの。この2つを分けておくことが、担当が替わっても運用が揺れない状態への近道になります。
とはいえ、採用担当が退職して採用が止まっている最中に、規程づくりから始めるのは順番が逆です。まず止まった求人と進行中の応募者を戻し、後任が着任して運用が見えてきた段階で、動かさない部分を規程に移すのが現実的です。
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