退職した前任者に業務委託で手伝ってもらう案は成立するか
採用担当が辞めると決まったとき、多くの会社で最初に出てくる案が「本人に業務委託で残ってもらう」です。社内の事情を分かっている人が週1回でも見てくれるなら、後任を急いで採る必要もなく、外部に頼むより安く収まるように見えます。実際、退職時の話し合いの場で本人から「落ち着くまでは手伝いますよ」と言ってもらえることも珍しくありません。
この案は、条件を絞れば有効です。ただし「安く穴が埋まる」という期待で契約すると、数ヶ月後に想定と違う状態になりやすい。ここでは費用・稼働の実態・リスクの3点に分けて、どこまでなら成立するのかを整理します。
まず、何を頼もうとしているのかを分解する
「手伝ってもらう」という言葉には、性質の違う3つの作業が混ざっています。
ひとつは質問対応です。「あの媒体の契約はいつ更新か」「この候補者は誰の紹介か」といった、本人の頭の中にしかない情報を聞き出す作業。もうひとつは実作業で、求人原稿の修正、応募者への返信、面接の日程調整など、手を動かす仕事です。最後が判断で、この応募者を通すか、いくらで条件提示するかを決める仕事にあたります。
このうち、外に出した退職者に安定して頼めるのは質問対応だけと考えておくと、見積もりが現実的になります。理由は次の2つです。
費用:単価は安く見えても、実働時間が読めない
業務委託の報酬は、時間単価で決める場合と月額固定で決める場合があります。採用実務の経験者に外部から依頼する場合、時間単価は数千円台、月額固定なら数万円から十数万円というレンジで話が始まることが多いのですが、これはあくまで交渉の出発点としての目安で、本人の経験や前職の年収、関係性によって大きく動きます。
問題は単価より実働時間のほうです。週1回・月4時間の想定で月5万円の契約をしたとして、実際に発生する連絡はその枠に収まりません。応募が来れば即日の判断が要りますし、面接の日程がずれれば夜でも連絡が要ります。
| 想定していた稼働 | 実際に起きやすいこと |
|---|---|
| 週1回のオンライン相談(月4時間) | 質問がチャットで断続的に飛び、枠の外で対応が発生する |
| 応募者への返信を巻き取ってもらう | 応募のタイミングは選べず、返信が翌週にずれて辞退が増える |
| 月額固定で「何でも相談可」 | 範囲が曖昧なため、依頼する側が遠慮して結局聞けない |
返信が数日遅れることの影響は応募者への返信速度が採用結果をどう変えるかでも触れていますが、週1稼働の委託先を応募対応の経路に組み込むと、速度の面で無理が出やすくなります。
稼働の実態:新しい職場に入った後は反応が鈍くなる
退職した人の多くは、次の職場に入ります。転職直後は本人にとって最も余裕のない時期で、副業規程の制約がかかる場合もあります。契約時点では本人も善意で「大丈夫です」と言いますが、3ヶ月も経つと返信間隔が延びていくのは、本人の誠実さの問題ではなく生活の構造の問題です。
在籍中であれば業務命令として引き継ぎを依頼できますが、退職後はそれができません。有給消化期間の段階でも扱いが変わることは前任者が有給消化に入る。どこまで引き継ぎを頼めるかに整理しています。退職後の業務委託は、そのさらに先の、完全に対等な取引相手としての関係です。返事が来ないときに催促できる根拠は契約書の文言しかありません。
ここから導かれる実務上の結論は、急ぎの仕事を前任者の返信に依存させないということです。
リスク:属人化が固定される
もうひとつ見落とされやすいのが、この案が社内の状態を変えないことです。採用が前任者に依存していたから今困っているのに、外部契約という形で同じ依存を続けることになります。
前任者に聞けば答えが返ってくる状態が続く限り、社内で手順書を作る動機は生まれません。半年後、業務委託契約を終える段になって、結局何も残っていないことに気づく。このとき前任者の記憶はさらに薄れており、最初の3ヶ月より条件は悪くなっています。依存を外に出す方法そのものは採用が特定の人に依存している状態の解き方にまとめました。
加えて、応募者の個人情報を退職者が個人の端末で扱い続ける状態になりやすい点も、契約前に確認しておきたいところです。
成立するのは、期間と範囲を絞った場合
以上を踏まえると、この案が機能する条件はかなり限定的です。
| 項目 | 成立しやすい設計 | 破綻しやすい設計 |
|---|---|---|
| 期間 | 1〜3ヶ月の期限つき、延長は再契約 | 期限を切らず「落ち着くまで」 |
| 範囲 | 質問への回答、過去の経緯の確認 | 応募者対応、日程調整、合否判断 |
| 連絡方法 | 社内窓口1名がまとめて聞く | 誰でも直接連絡してよい |
| 報酬 | 月額固定の少額+回数上限を明記 | 実働に応じた青天井 |
| 情報の扱い | 会社側の共有フォルダのみ、端末に残さない | 前任者の個人メールで継続 |
要するに、前任者に頼むのは「記憶の参照」であって「稼働」ではない、という割り切りです。この設計なら、月数万円の範囲で、社内の復旧作業を大きく助けてくれます。聞く順番の優先度は引き継ぎ面談が1回しか取れないなら、何を聞くかの考え方がそのまま使えます。
一方、実作業まで任せる前提で契約すると、費用は膨らみ、稼働は読めず、属人化は解けません。この場合は業務委託ではなく、後任を置く前提で組み直したほうが早いことが多いです。
前任者に頼む案と並行して決めておくこと
業務委託の契約を結ぶかどうかにかかわらず、決めなければならないのは「誰が日々の応募対応を持つか」です。ここが空いたままだと、前任者への質問が増えるだけで前に進みません。
社内で兼任するのか、後任を採るのか、外部に出すのか。この判断を先に済ませたうえで、前任者への委託は補助として位置づける。順序を逆にすると、委託契約が終わったときに振り出しに戻ります。
相談先としての選択肢
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