採用が特定の人に依存している状態の解き方
採用について何か決めるとき、いつも同じ人の名前が出てくる。求人の掲載を止めたいと思っても、その人しか管理画面に入れない。応募者を通すか見送るかも、結局その人の判断を待つことになる。今のところ問題は起きていないけれど、その人が辞めたらどうなるのかは、考えたくないので考えていない。
この記事は、まだ担当者が在籍しているうちに依存を薄めたい会社に向けたものです。すでに担当者が抜けてしまった場合の初動は採用担当が退職した直後にやるべき7つのこと(優先順位つき)にまとめているので、そちらを先に読んでください。ここでは「まだ間に合う状態」で何をどの順にやるかを扱います。
「あの人しかできない」は3種類に分かれる
属人化という言葉でひとまとめにすると、何から手をつけていいか分かりません。実際に起きていることは、次の3つのどれかであることが多いです。
| 種類 | 症状の出方 | 外に出す方法 | 本人がいなくても復旧できるか |
|---|---|---|---|
| 権限 | ログインできない、契約内容が分からない、支払いを止められない | アカウント名義と契約書を法人管理に移す | 復旧に日数がかかる。媒体によっては本人の協力が要る |
| 判断基準 | 「この人は通していいのか」が誰にも判断できない | 過去の合否とその理由を言語化して残す | 本人がいないと再現しにくい |
| 手順 | 何をどの順にやるか分からない、操作方法が分からない | 手順書・テンプレートに落とす | 時間はかかるが調べれば復旧できる |
この3つは、失われたときの困り方がまったく違います。手順は調べれば何とかなりますが、権限は調べても出てきません。判断基準にいたっては、本人の記憶の中にしか存在しないことがあります。
同じ「属人化」でも、放置したときの被害の大きさが違うというのが、この分け方の要点です。
手をつける順番は「抜けたら止まる順」
3つ全部を一度にやろうとすると、たいてい途中で止まります。現任者は通常業務を抱えたままですし、依頼する側も何が終わったのか分からなくなるからです。順番をつけます。
1. 権限(最初にやる)
抜けたときに止まる時間がいちばん長いのが権限です。求人媒体の管理画面が個人のメールアドレスで登録されている、二要素認証が本人のスマートフォンに紐づいている、契約書の保管場所を本人しか知らない。このどれかがあると、掲載を止めることすらできない期間が発生します。その間も掲載料は発生し続けます。
やることは複雑ではありません。使っている媒体をすべて書き出し、それぞれの登録メールアドレス・認証方法・契約期間・自動更新の有無・請求先を一覧にする。個人名義のものは法人の共有アドレスに変更を申請する。この作業は本人が在籍しているうちなら数日で終わることが多い一方、抜けた後だと媒体側の手続きを一から踏むことになります。具体的な確認項目は求人媒体の棚卸しで何を確認するかにまとめました。
2. 判断基準(次にやる)
権限が移っても、応募者を通すか見送るかを誰も決められなければ選考は止まります。ここが属人化のいちばん厄介な部分です。
判断基準は「言語化してください」と頼んでも、たいてい出てきません。本人も意識せずに判断しているからです。有効なのは、過去の実物から逆算する方法です。
- 直近半年で見送った応募者を10件ほど並べ、それぞれ「なぜ見送ったか」を一行ずつ書いてもらう
- 同じく通した応募者を5件ほど並べ、「何が決め手だったか」を書いてもらう
- 書き出された理由をグループにまとめ、「必須条件」「あると望ましい条件」「見送りの理由になる条件」の3つに整理する
抽象的な問いより、実際の応募者を見ながらのほうが言葉が出やすい傾向があります。ここで出てきたものは、そのまま求人原稿の見直しにも使えます。
3. 手順(最後でいい)
操作方法や作業の流れは、時間はかかっても後から復元できます。だから優先度は最後です。ただし「最後」であって「やらなくていい」ではありません。手順書を書く順番については採用フローを手順化するとき、最初に書くべき5項目で扱っています。
一度に全部やらせない
現任者に「引き継ぎ資料を作っておいて」と丸投げすると、粒度がばらばらの資料が出てきたり、そもそも着手されないまま退職日が来たりします。
分割して、期限を切って依頼するほうが進みやすいです。
| 期間 | 依頼する内容 | 完了の判断 |
|---|---|---|
| 1ヶ月目 | 媒体アカウントと契約の一覧化、名義変更の申請 | 責任者が自分の権限でログインできる |
| 2ヶ月目 | 進行中の応募者と選考状況の一覧化 | 誰がどの段階にいるか一覧で分かる |
| 3ヶ月目 | 過去の合否事例からの判断基準の書き出し | 本人以外が一次選考の可否を仮判断できる |
| 4ヶ月目 | 日次・週次の作業手順とテンプレート | 手順書を見た人が応募対応を1件完了できる |
「作った」ではなく「他の人が使えた」を完了の基準にするのが大事です。資料は存在するのに誰も使えない、という状態が最も多い失敗の形です。
なお、担当者が1名または兼任という体制そのものが持つリスクは採用担当が一人しかいない会社のリスクを整理するで整理しています。属人化を解く作業と、体制を変える判断は別の話として考えてください。
依存度は「不在1週間」で測れる
進んだかどうかを測る簡単な方法があります。担当者が1週間不在になったと仮定して、次の質問に答えてみてください。
- 求人の掲載を止められるか
- 新しい応募が来たとき、24時間以内に返信できるか
- 一次面接の日程を組めるか
- 応募者を見送る判断ができるか
- 今月いくら媒体費が発生しているか分かるか
答えられない項目が、そのまま次に手をつける場所になります。1と5は権限の問題、2と3は手順の問題、4は判断基準の問題です。
すべてに答えられる会社は多くありません。ただ、1つずつ潰していけば、少なくとも「抜けた瞬間に全部止まる」状態からは抜けられます。
社内だけで進まない場合
ここまでの作業は、社内で進められるならそれが最も安上がりです。一方で、現任者が退職を決めていて時間がない、あるいは書き出された内容が正しいか判断できる人が社内にいない、という状況もあります。採用の経験者が社内に一人しかいない場合、その人が書いた資料をレビューできる人がいないからです。
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