現場からの募集依頼を受ける1枚(求人依頼票)を作る
採用担当が退職したあと、現場からの「そろそろ一人ほしいんだけど」という声は、廊下やチャットで管理部門に流れてきます。前任者がいたころは、その一言を受けた本人が頭の中で職種名を決め、給与レンジを推定し、面接官を押さえて、原稿まで起こしていました。その工程が丸ごと抜けた状態で同じ一言を受けると、受けた側は何から手をつければいいのか分からないまま時間だけが過ぎます。
この記事では、現場からの募集依頼を紙1枚(またはフォーム1画面)で受け取る「求人依頼票」の作り方を扱います。目的は書類を増やすことではなく、採用の経験がない後任でも、この1枚が埋まっていれば次の作業に進めるという状態をつくることです。
口頭で依頼を受けると、どこで止まるか
口頭の依頼が危険なのは、依頼した側とされた側で「決まっていること」の認識がずれるからです。現場は「話したから動いてくれるはず」と思い、管理部門は「詳細が来たら動こう」と思う。その間、求人は出ません。
実際に止まりやすいのは、次のような場面です。
- 媒体に掲載しようとしたが、給与の下限をいくらで出すか決裁が取れていない
- 原稿を書こうとしたが、任せる業務の範囲が「営業全般」としか聞いていない
- 応募が来たが、誰が面接するかが決まっておらず日程を出せない
- 内定を出す段になって、提示額の上限を誰も知らない
いずれも採用の技術の問題ではなく、依頼の時点で情報が欠けていたことが原因です。前任者は経験と人間関係でこの欠けを補っていました。補っていた人がいなくなった以上、欠けを埋める役割は書式に移すしかありません。
なお、依頼を受ける前段として媒体アカウントや契約の状況が分からない場合は、先にそちらを片付けたほうが早いことがあります。採用担当が退職した直後にやるべき7つのこと(優先順位つき)に順番を整理しています。
求人依頼票に載せる7項目
項目は増やすほど現場が書かなくなります。募集を始めるための最小限として、次の7つに絞るのが扱いやすい形です。
| 項目 | 書いてもらう内容 | 空欄だと止まること |
|---|---|---|
| 職種・ポジション名 | 社内呼称ではなく、応募者に伝わる名称 | 原稿の見出しが決まらない |
| 必要人数 | 何名か。増員か欠員補充か | 予算と掲載期間の見積もりが立たない |
| 必要時期 | いつまでに入社してほしいか | 逆算した掲載開始日が決まらない |
| 必須条件 | これが無いと採用できない条件を3つまで | 書類選考の可否判断ができない |
| 任せる業務 | 入社後3ヶ月で実際にやってもらう作業 | 仕事内容が抽象的なまま掲載される |
| 給与レンジ | 提示できる下限と上限 | 掲載できない。内定時に交渉できない |
| 面接官と決裁者 | 一次を誰が、最終決裁を誰がするか | 日程が出せない。合否が決まらない |
いくつか補足します。
「必須条件」を3つまでに制限するのは、現場に優先順位をつけさせるためです。制限しないと希望が10個並び、その全部を満たす人は市場にほとんどいない求人ができあがります。書ききれなかった条件は「あれば望ましい」欄に回します。
「任せる業務」は、職務経歴風の抽象的な記述ではなく、入社後3ヶ月で実際に手を動かす作業を書いてもらうと精度が上がります。ここが具体的に書けない依頼は、現場でもまだ役割が固まっていない可能性があります。求人原稿への落とし込み方は求人原稿を刷新するときに直す7か所で扱っています。
「面接官と決裁者」は、名前だけでなく「返答にかかる目安の日数」まで書いてもらうと、後の日程調整が楽になります。
空欄がある依頼は着手しない、という運用
依頼票を作っても、空欄のまま受け取って「こちらで埋めておきます」を続けると、結局は担当者の頭の中に情報が戻り、元の属人化に逆戻りします。運用のルールはシンプルに一つで足ります。7項目が埋まっていない依頼書は、受け取るが着手しない。
これは現場に冷たくするためのルールではありません。着手しない代わりに、埋まっていない欄が何かをその日のうちに返し、誰に聞けば埋まるかを示します。多くの場合、空欄になるのは給与レンジと決裁者で、これは現場だけでは決められない項目です。つまり空欄は、経営側が判断すべき論点が未処理であることを可視化しています。
運用を始めるときの決めごとは次の3点です。
- 受付窓口を1つにする(採用担当のメールアドレスか共有フォーム)
- 受け取ったら、完備か不備かを原則2営業日以内に返す
- 不備の差し戻しは「誰に何を聞けば埋まるか」まで書く
この運用は、採用の可否を誰が決めるかという決裁の整理と表裏です。決裁点が曖昧なままだと、依頼票の「決裁者」欄が埋まりません。採用が特定の人に依存している状態の解き方も合わせて確認しておくと、どこから手をつけるかが見えやすくなります。
なぜ未経験の後任でもこの1枚で動けるのか
採用担当の仕事のうち、経験が必要なのは判断の部分です。逆に言えば、判断の材料がそろっていれば、作業自体は未経験者でも進められることが多くあります。
依頼票が埋まっている状態は、次のような効果を持ちます。
| 埋まっている欄 | 後任が次にできること |
|---|---|
| 職種・必要時期 | 掲載開始日の逆算、媒体の選定相談 |
| 必須条件・任せる業務 | 求人原稿の下書き、書類選考の一次仕分け |
| 給与レンジ | 掲載条件の確定、条件提示の下準備 |
| 面接官と決裁者 | 面接枠の確保、日程の提示、合否連絡の手配 |
未経験の後任がつまずくのは、「この応募者を通してよいか分からない」「この条件を出してよいか分からない」という場面です。依頼票はその都度の相談を減らし、本人が判断できる範囲を広げます。後任を経験者に限定しなくてよい理由については後任は未経験でいい。採用担当が4ヶ月で育つ理由で詳しく書いています。
依頼票は一度作って終わりではなく、募集が終わるたびに「実際に採用できた人は必須条件を満たしていたか」を振り返ると精度が上がります。書いた条件と実際の採用がずれ続ける場合、条件のほうを直す必要があるサインのことが多いです。
導入の手順(1週間で形にする)
完璧な書式を作ろうとすると着手が遅れます。次の順で進めると、1週間程度で運用に載せられることが多いです。
- 直近1年で募集した職種を洗い出し、うち2つを選ぶ
- その2職種について、7項目を埋めた「記入例」を管理部門が先に作る
- 記入例を現場の部門長に見せ、書けない欄・書きにくい欄を聞く
- 欄の文言を調整し、フォーム化(共有フォルダのExcelでも可)
- 次の募集依頼から、この1枚での受付に切り替える
記入例を先に作るのが要点です。白紙の様式だけを配ると、書き方が分からず口頭に戻ります。
求人依頼票は、止まった採用を動かすための入口を1つに絞る道具です。とはいえ、依頼票を整える前に、媒体の契約や進行中の応募者が宙に浮いたままという会社も少なくありません。
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