求人原稿をAIで書かせてよいか、どこまで任せるか
採用担当が抜けたあと、求人原稿を書く人がいなくなります。総務や管理部門の方が兼任で引き受けたものの、前任者が書いた原稿をどう直せばいいか分からない。そこで生成AIに下書きをさせてみる、という流れは自然なものです。実際、AIは文章を整えたり構成を作ったりする作業では十分に使えます。
ただし、求人原稿には「間違えると応募者とのトラブルになる箇所」と「間違えても直せばいい箇所」が混ざっています。この2つを分けずに全体をAIに任せると、もっともらしい文章が出てきた分だけ、どこが事実でどこが推測なのか分からなくなります。この記事では、任せてよい作業と人が書く箇所の線引きを、採用の専門知識がない方でも使える形で整理します。
任せてよい作業と、人が書く箇所
まず結論から分けます。判断の基準は「その内容が間違っていたとき、応募者との約束が崩れるかどうか」です。
| 区分 | 具体的な作業 | 理由 |
|---|---|---|
| AIに任せやすい | 見出しの構成づくり、箇条書きの整理、文字数の調整、硬い文章の言い換え、誤字脱字の確認 | 間違っても読み返せば気づける。事実そのものを作っていない |
| AIに下書きさせて人が直す | 仕事内容の説明文、会社紹介、求める人物像の文章化 | 材料を人が渡せば書ける。ただし誇張や推測が混ざりやすい |
| 人が書く | 給与・手当・固定残業代の内訳、就業時間、休日、雇用形態、就業場所と業務の変更の範囲、選考フローと所要日数、応募先の連絡先 | 労働条件の明示に関わる。食い違うと入社後のトラブルや辞退の原因になる |
AIに渡すのは「材料」ではなく「作業」だと考えると迷いません。 材料(条件や事実)は社内にしかなく、AIは持っていないからです。
労働条件の欄にどの項目を書く必要があるかは、求人票の労働条件の書き方が今のルールに合っているかで項目単位に整理しています。前任者が作った原稿を使い回している場合は、先にそちらで行を埋めてから文章を整える順番がやりやすいです。
AIは、分からないところを埋めて書いてしまう
生成AIを使うときに最も注意したいのが、情報が足りない部分を推測で補って、文章として成立させてしまうことです。悪意があるわけではなく、文章を完成させる仕組み上そうなります。
求人原稿で起きやすいのは次のような補完です。
- 給与を「月給25万円〜」と渡しただけなのに、「昇給年1回・賞与年2回」と書き足される
- 残業時間を伝えていないのに「残業はほとんどありません」と入る
- 研修制度の有無を渡していないのに「充実した研修制度」と書かれる
- 選考回数を伝えていないのに「面接2回・最短2週間で内定」と出る
いずれも、読んだ応募者は会社が約束したものとして受け取ります。面接で「書いてある賞与の話ですが」と聞かれて答えられない、という事故はここから起きます。
対策は単純で、出力された原稿を「社内で確認が取れた行」と「取れていない行」に分けてから掲載することです。確認が取れていない行は、消すか、社内で確認してから入れ直します。採用未経験の方が一人で判断すると消しづらいので、現場の責任者に一度目を通してもらう運用にしておくと安全です。
掲載前に必ず確認してほしい項目
| 確認する行 | 誰に確認するか |
|---|---|
| 給与の下限・上限、固定残業代の時間数と金額 | 経営または管理部門 |
| 賞与・昇給の有無と実績の表現 | 経営または管理部門 |
| 就業時間、休日日数、年間休日 | 就業規則・労務担当 |
| 仕事内容の範囲、使用する設備やソフト | 配属先の責任者 |
| 選考フロー(回数・形式・返答までの日数) | 面接を担当する人 |
| 応募後の連絡先と返信の担当 | 社内の採用窓口 |
選考フローは、書いた内容がそのまま応募者への約束になります。「3日以内にご連絡します」と原稿に書いたなら、その体制が社内にあるかを先に決めてください。返信の遅れが選考結果に与える影響は応募者への返信速度が採用結果をどう変えるかにまとめています。
入力してよい情報、入力しない情報
社内で生成AIを使うとき、どこまで入力してよいかのルールがないまま始まることが多いです。求人原稿の作成では、少なくとも次の線引きを決めておくと事故が減ります。
入力しない方がよいもの:
- 応募者の氏名、連絡先、履歴書や職務経歴書の内容、面接メモ
- 社員個人の給与額や評価
- 契約書や見積書のPDFそのもの
- 公開していない社名・拠点情報(原稿を外部に出す前の下書き段階では特に)
入力してよいもの:
- 求人票にそのまま載せる予定の条件(公開前提の情報)
- 職種名や仕事内容など、掲載したら誰でも見られる内容
迷ったら「掲載したあとに誰でも読める情報か」で分けると判断しやすいです。応募者の個人情報を外部サービスに入れる扱いは、委託先に渡す場合と考え方が共通しています。社内ルールを決める際は応募者の個人情報を外部の委託先に渡すときの取り決めも参考になります。
無料版の生成AIサービスでは、入力した内容が学習に使われる設定になっている場合があります。会社として使うなら、設定画面で学習への利用をオフにできるか、法人向けの契約があるかを先に確認してください。
そのまま載せると、原稿が横並びになる
もう一つの問題は、品質ではなく「差がつかない」ことです。同じ職種の原稿を同じようにAIに書かせると、どの会社も似た言い回しになります。「風通しの良い職場」「アットホームな雰囲気」「未経験でも安心のサポート体制」といった表現は、応募者が比較画面で読み飛ばす部分です。
差がつくのは、AIが書けない部分です。たとえば次のような情報は、社内の人に聞かないと出てきません。
- 1日の具体的な流れ(何時に何をするか)
- 直近で入社した人がどこから転職してきたか、どのくらいで独り立ちしたか
- その仕事の大変な部分と、会社として手当てしていること
- 使っている設備・システムの具体名
AIには、これらを箇条書きで渡して文章に整えてもらう使い方が向いています。原稿のどの箇所を具体化すると応募に効くかは求人原稿を刷新するときに直す7か所で観点を分けています。
社内ルールは3行で足りる
細かい規程を作る必要はありません。後任や兼任者が迷わない程度に、次の3行を決めておけば運用できます。
- 条件(給与・労働時間・休日・選考フロー)は人が書き、AIには触らせない
- 応募者情報と非公開情報はAIに入力しない
- 掲載前に、確認が取れていない行を消すか確認してから出す
このルールは、後任が着任したときにそのまま渡せます。原稿作成を後任に任せる時期の目安は後任が最初の1ヶ月で覚える順番に沿って考えると、応募対応と媒体操作に慣れたあとに回すのが現実的なことが多いです。
AIは、採用担当がいない期間の作業量を減らす道具としては有効です。ただし、何を書くべきかを決める部分は社内に残ります。そこが決まらないまま原稿だけ量産されると、応募が来たときに答えられる人がいない状態になります。
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