応募者から「給与をもう少し」と言われたとき、誰がどこまで決めるか
面接の終わり際、あるいは内定を伝えた直後に「給与をもう少し上げていただけませんか」と言われる。採用担当が在籍していた頃なら本人が受け止めて社内に持ち帰っていた話が、担当不在の今は面接官や社長の前に直接飛んできます。しかも、どこまでなら出していいのかを知っていた人がもういない。
この場面で起きやすい失敗は二つです。その場の空気で「検討します」以上のことを口にしてしまうことと、逆に何も答えられず持ち帰ったまま一週間返事をしないことです。どちらも後で効いてきます。ここでは、決裁の線が曖昧な状態を前提に、初動から回答までの進め方を整理します。
その場では、受け取るだけにする
増額の要望を受けたら、やることは「正確に聞き取って、期限を伝えて、終える」の三つだけです。評価や見込みを匂わせる言葉は避けてください。「その金額なら通ると思います」「前例はあります」といった一言が、後から条件提示を下げられない縛りになります。
聞き取るのは次の内容です。希望額(月給か年収か、どちらの単位で言っているか)、その根拠(現職の年収、他社からの提示、生活上の事情)、金額以外に気にしている点があるか。現職年収や他社提示については、言える範囲でという前置きを付けて尋ねます。
その場で答えてよいのは「社内で確認して、◯月◯日までにご連絡します」という一文だけと決めておくと、面接官が誰であっても対応がぶれにくくなります。誰が最終的に金額を決めるのかという社内の線引きそのものは、採用の可否を誰が決めるかを、紙に1枚で決めておくで扱っています。この記事はその線が引けていない状態での進め方です。
持ち帰って確認する3点
社内で見るのは次の三つです。順番にも意味があります。上から順に見て、どこかで「無理」が出たらそこで検討は止まります。
| 確認する点 | 見る場所 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| ①求人票のレンジ上限 | 掲載中の求人原稿、媒体の管理画面 | 希望額がレンジ内なら社内調整の話。上限超えなら別の判断になる |
| ②同職種の既存社員との並び | 給与台帳、等級表 | 同じ仕事をしている在籍者を上回らないか。上回る場合は既存社員側の調整が先 |
| ③入社後の昇給で埋められるか | 評価制度、過去の昇給実績 | 半年〜1年で差が埋まる見込みを、制度として説明できるか |
①は見落とされがちですが重要です。求人票に「月給28万〜35万円」と書いて募集している以上、35万円を超える提示をすると、同じ求人を見て応募した他の候補者との整合が取れなくなります。レンジ上限を超えるなら、求人原稿の修正と、進行中の他の応募者への扱いをセットで考えることになります。
②で引っかかるケースが最も厄介です。新しく採る人が既存社員を上回ると、遅かれ早かれ社内に伝わります。この論点は求人の提示給与が既存社員を上回っているとき、どう整えるかに詳しくまとめています。
③は「今は出せないが、入社後に埋められるか」という視点です。試用期間後の見直し、半年後の評価タイミングなど、制度として説明できる形があるなら、金額を据え置いたまま納得してもらえることがあります。逆に、制度の裏付けなく「頑張り次第で上げます」と言うのは避けてください。入社後の不信につながりやすい約束です。
なお、そもそも提示額が市場とずれていないかの確認は別の話です。応募が集まらない原因が給与水準にある場合は、個別交渉ではなく求人票全体の見直しになります。調べ方は募集職種の給与が相場に合っているか、自社で調べる方法を参照してください。
回答期限は、自分から切る
持ち帰ると決めたら、応募者に任せず自分から期限を言ってください。「確認して折り返します」だけだと、応募者側は何日待てばいいか分からず、その間に他社の選考を進めます。
目安としては、社内の決裁者と連絡が取れる状態なら3営業日、役員会や月次の決裁を挟むなら1週間程度を提示することが多いです。実際より少し長めに伝え、早く決まれば前倒しで連絡するほうが安全です。
伝え方の骨格はこうなります。
承知しました。いただいたご希望は社内に持ち帰り、◯月◯日(◯)までにご回答します。その際、金額以外の条件についてもあわせてお伝えします。その日までにご不明な点があれば、こちらまでご連絡ください。
最後の一文で窓口を明示しておくと、担当交代中であることによる宙吊りを防げます。担当が変わった旨をまだ伝えていない場合は、選考中の応募者に「担当が変わりました」をどう伝えるかの型を先に使ってください。
金額以外で動かせる条件を先に並べる
給与だけを見て「出せる/出せない」の二択にすると、交渉は決裂しやすくなります。社内で検討する前に、動かせる条件を一覧にしておくと選択肢が増えます。
| 条件 | 動かせる余地 | 決裁の重さ |
|---|---|---|
| 入社日 | 本人の都合に合わせて前後させる | 現場の受け入れ調整だけで済むことが多い |
| 役職・等級 | 一段上の等級で迎える | 既存社員との並びに影響するため重い |
| 手当 | 役職手当、資格手当、住宅手当などの適用 | 制度の適用可否の確認で済む場合がある |
| 勤務地・勤務形態 | 通勤時間の短い拠点、在宅日数 | 現場の運用次第。金銭負担は小さい |
| 試用期間中の減額 | 試用期間の減額を設けない、短縮する | 影響額が限定的で通しやすい |
このうち、手当と試用期間の扱いは比較的早く確認でき、本人の手取りにも効きます。給与本体を動かす前に、ここで埋められないかを見てください。
断る場合の文面の骨格
増額できないという結論になったとき、短く「ご希望には添えません」とだけ返すと辞退されやすくなります。次の四つを順に書くと、断っても話が続きやすくなります。
- 要望を社内で検討した事実(誰に相談したかまで書く必要はありません)
- 提示額が変わらないこと、およびその理由(レンジ、社内の並び)
- 代わりに確定できる条件(入社日、手当、試用期間の扱いなど)
- 入社後に見直す機会があるなら、その時期と判断の基準
理由を「社内規定のため」とだけ書くと、応募者には検討されたのかどうかが伝わりません。「現在募集している等級の上限が◯万円で、同じ職務の在籍者との兼ね合いから、この額を提示額としています」と書けるなら、そのほうが納得されやすくなります。
決まった条件は、口頭で終わらせず労働条件通知書に反映してください。口頭の合意が書面に残らないまま担当が代わると、後で「話が違う」という指摘につながります。条件の伝え方の全体像は内定を出すとき、条件をどう伝えるか(オファー面談の組み立て)にまとめています。
迷う場面が続くなら、線を引き直す段階です
給与交渉で毎回止まるのは、応募者の問題ではなく、決裁の線が社内に残っていないことが原因であることが多いです。前任者の頭の中にあった「ここまでなら出していい」が消えた状態では、一件ごとに社長の判断を仰ぐしかなくなります。
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ご相談はLINE公式から受け付けています。採用ストップ診断(媒体アカウント・契約・進行中の応募者の棚卸し)までは無料です。今まさに回答期限が迫っている案件がある場合も、現状を教えていただければ、確認の順番からご一緒に整理します。