求人の提示給与が既存社員を上回っているとき、どう整えるか
前任の採用担当が残した求人原稿を開いてみたら、提示している給与が、同じ仕事をしている既存社員の実際の給与を上回っていた。応募が来ないので少しずつ上げていった結果らしく、社内の誰にも共有されていない。これは採用担当が抜けた会社で、比較的よく見つかる状態です。
厄介なのは、放っておいても自然には収まらない点です。求人票は公開されている文書で、社員も家族も取引先も見られます。気づかれてから慌てて対応するのと、気づかれる前に整えるのとでは、かかる労力も社内の空気も変わります。ここでは、社内に知られる経路、指摘されたときの初動、求人原稿と既存社員のどちらをどう動かすか、そして募集を止めてでも先に整合を取るべき条件を順に整理します。
まず、何と何を比べているのかを揃える
「求人のほうが高い」と判断する前に、比較の土台を揃えてください。土台がずれたまま社内で話すと、実際には差がないのに騒ぎになったり、逆に大きな差を見落としたりします。
確認する項目は次の4つです。
- 月給表記に何が含まれているか(基本給のみか、固定残業代や各種手当を含む総額か)
- 賞与を含めた年収ベースでいくらか
- モデル年収を書いている場合、それが誰の実額に基づくものか
- 求人のレンジ(例:月給25万〜38万円)の下限が、既存社員の誰の水準に当たるか
固定残業代を含む総額表記と、既存社員の基本給を並べて比べると、差が実際より大きく見えます。逆に、求人の下限が既存社員より低くても、上限が現場のベテランを超えていれば、それは差として認識されます。
給与額そのものが市場に対して妥当かどうかは、別の観点です。同業同エリアの求人から中央値を取る手順は募集職種の給与が相場に合っているか、自社で調べる方法にまとめています。相場を確かめないまま社内調整に入ると、下げすぎて応募が止まる方向に振れやすくなります。
既存社員に知られる経路
「求人票を社員が見ることはない」という前提は成り立ちません。実際には次のような経路で伝わります。
| 経路 | 気づかれやすさ | 先に手を打てること |
|---|---|---|
| 求人媒体・自社採用ページの閲覧 | 高い。社員は自社の求人を見ている | 掲載内容を経営側が把握しておく |
| 社員紹介(リファラル)で友人に紹介 | 高い。紹介者本人が条件を読む | 紹介依頼の前に条件を確認する |
| 現場社員が面接に同席 | 高い。条件提示の場に居合わせる | 同席者に提示レンジを事前共有する |
| 入社した新人との雑談 | 中。入社後1〜3ヶ月で表面化しやすい | 配属前に給与の整合を取っておく |
| 転職サイト経由のスカウト | 中。自社求人が本人に届く場合がある | 除外設定の有無を媒体に確認する |
このうち、面接同席と社員紹介は、採用を再開した瞬間に発生します。求人を再開する前に給与の整合を確認しておくほうが、後から説明するより手間が少ないことが多いです。
指摘を受けたときは、黙らない
社員から「求人のほうが高いですよね」と言われたときに最も悪い対応は、答えずに流すことです。答えないと「会社は知っていて放置している」と受け取られ、話が職場全体に広がります。
その場でやることは3つです。
- 事実を否定しない。「その求人票は今こういう条件で出しています」と認める
- 理由の説明と、条件の約束を切り離す。「採用市場の水準に合わせて設定した」までは言い、「あなたも上げます」とはその場で言わない
- 回答期限を伝える。「◯月◯日までに、人事と経営で整理して回答します」と日付で区切る
給与は決裁事項なので、面談した管理職が即答できる話ではありません。ただし「わからない」で終わらせず、いつ誰が回答するかだけは確定させてください。誰が何を決められるかが曖昧だと回答が遅れます。決裁点の整理は採用の可否を誰が決めるかを、紙に1枚で決めておくが参考になります。
整え方は3つ。どれを選ぶか
| 選択肢 | 向く状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 求人原稿の給与レンジを下げる | 前任者が根拠なく上げていた/相場より明らかに高い | 応募が減る可能性がある。募集再開の前に判断する |
| 既存社員の給与を引き上げる | 求人の水準が相場に沿っており、既存側が下回っている | 原資と対象範囲の決裁が要る。時間がかかる |
| 職務の違いを定義し直す | 求人が担う役割が既存社員と実際に違う | 後づけの理屈にすると不信を招きやすい |
求人原稿を直す場合は、下限から書き直す
給与レンジは上限に目が行きがちですが、社内の整合で効くのは下限です。下限を、同じ仕事をしている既存社員の実額に合わせる。そのうえで上限は、実際にその額を払っている社員がいる範囲までに留めます。誰も到達していない上限を書くのは、応募者にも既存社員にも説明がつきません。
固定残業代を含む場合は、時間数と金額の内訳を明記します。表記そのもののルールは求人票の労働条件の書き方が今のルールに合っているかに譲りますが、内訳を書くと総額の見え方が変わり、それだけで差が説明できることもあります。原稿全体の直し方は求人原稿を刷新するときに直す7か所を併せて確認してください。
既存社員側を調整する場合の順番
順番を間違えると、最初に声を上げた人だけが得をする形になり、不公平感が残ります。
- 対象範囲を先に決める(1人だけか、同一職種全員か、等級単位か)
- 年間の追加人件費を試算する(賞与・社会保険料の会社負担分を含める)
- 適用時期を決める(次回改定に合わせるか、当月からか、遡及するか)
- 決裁を取る
- 対象者へ個別に伝える。求人票の件には触れず、評価と職責の説明として伝える
稟議に持ち込むときは「求人票との整合を取るため」ではなく、「募集職種の相場水準と現行の社内水準に差があり、定着と採用の両面で是正が必要」という形にすると、経営判断として扱われやすくなります。
募集を止めてでも、先に社内を整えるべき条件
次のいずれかに当てはまる場合は、掲載を一時停止してから整合を取るほうが傷が浅く済むことが多いです。
- 既に社員から指摘が出ており、回答期限が来ている
- 同じ職種の既存社員が複数おり、全員が求人の下限を下回っている
- 現場社員が面接に同席する予定がある
- 社員紹介で応募を集めようとしている
- 求人の上限に該当する社員が社内に一人もいない
逆に、欠員が業務に直結していて止められない場合は、掲載を続けつつレンジの下限だけ先に修正し、条件提示は決裁が下りるまで保留にする方法もあります。ただし、応募者を待たせる期間が延びるほど辞退は増えます。どのくらいで離れるかは応募者対応が止まったまま2週間経つと、離脱率はどう変わるかにまとめています。
引き継ぎとしては、根拠を残すところまで
この問題の本質は、金額そのものより「なぜその額なのかを誰も説明できない」ことにあります。前任者の頭の中だけにあった調整の履歴が消えると、後任は同じことを繰り返します。
整え終えたら、職種ごとに「提示レンジの下限・上限」「その根拠にした相場データの日付」「既存社員との関係の説明」を1枚に残してください。次に条件を動かすときの出発点になります。
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