面接の交通費は出すのか。前例が分からないときの決め方
応募者から「面接の交通費は支給されますか」と聞かれて、答えに詰まった。社内を探しても規程はなく、求人票にも書いていない。前任の採用担当が、そのつど自分の判断で出したり出さなかったりしていたらしい——採用担当が抜けた会社でよく起きる場面です。
交通費は金額としては小さいのに、答え方を間違えると後から面倒になります。片方の応募者に出して、もう片方に出さなかったことが後で分かると説明がつかなくなる。経理に精算を回そうとしたら「何の支出か」で止まる。この記事では、前例が分からない状態から、その日のうちに社内の基準を1本決めるための順番を整理します。
まず、支給義務があるかどうかを確認する
面接の交通費は、法令で一律に支給が義務づけられているものではなく、各社の方針で決めているのが一般的です。つまり「出さない」という選択も成り立ちます。ただし、求人票や面接案内メールで支給すると書いてある場合、あるいは前任者が応募者に口頭で約束していた場合は、会社の意思表示として扱われます。
そこで最初に確認するのは、次の3つです。
- 現在掲載中の求人原稿に交通費の記載があるか(媒体ごとに違う可能性があります)
- 面接案内メールのテンプレートに記載があるか(前任者の送信済みメールを確認)
- 過去の経費精算に「面接交通費」「採用関係費」といった科目の支出が残っているか
3つめは経理に聞くのが早い方法です。領収書や精算書が残っていれば、前任者が実際にいくら出していたかが分かります。記録が一切なければ、これまで支給していなかった可能性が高いと考えて、これから基準を決めれば足ります。
支給する/しないを決める3つの判断軸
全職種・全選考段階で一律に決める必要はありません。次の3つで切り分けると、社内の説明がつきやすくなります。
| 判断軸 | 支給する方向に傾く場合 | 支給しない方向に傾く場合 |
|---|---|---|
| 職種の採用難易度 | 応募が集まりにくい専門職・有資格者 | 応募が十分に集まっている職種 |
| 移動の距離 | 他県・遠方からの呼び出し、宿泊を伴う | 近隣在住、公共交通で片道1時間以内 |
| 選考段階 | 最終面接、会社都合で来社を依頼した面接 | 一次面接、応募者の希望で来社する場合 |
実務上は「一次面接はオンライン可とし、交通費は出さない。最終面接は来社してもらい、遠方の方には支給する」という切り分けにしている会社が比較的多く見られます。遠方からの最終面接は、応募者側の負担が大きく、支給の有無が辞退の理由になることがあるためです。
**判断軸を決めたら、職種ごとに例外を作らないことが運用上は重要です。**例外が増えると、結局また属人的な判断に戻ります。
支給すると決めた場合、4つの項目を埋める
「出す」と決めただけでは運用できません。次の4つを埋めて初めて、採用担当以外の人でも同じ回答ができる状態になります。
| 項目 | 決め方の考え方 | 設定例 |
|---|---|---|
| 上限額 | 自社から最も遠い応募圏からの往復運賃を目安に置く | 上限5,000円/回 など |
| 実費か定額か | 事務処理を軽くするなら定額、公平性を取るなら実費 | 一律2,000円、または実費(上限あり) |
| 支払い方法 | 現金手渡しは当日完結するが現金管理が必要。振込は精算処理が増える | 当日現金、または後日振込 |
| 必要書類 | 証憑を求めるか、申告だけでよいか | 交通費申請書に経路を記入してもらう |
金額はあくまで目安です。自社の所在地と応募者の住むエリアによって妥当な水準は変わるため、最も遠い応募者が来た場合の往復運賃を調べ、それを上限に置くのが決めやすい方法です。
定額支給にする場合、税務上の扱いが実費弁償と変わる可能性があります。金額や支給方法によって判断が分かれるため、顧問税理士または経理責任者に確認してから運用を始めてください。
支払い方法で迷ったら、来社面接の受け入れ手順とセットで決めると漏れにくくなります。当日現金で渡すなら、誰が現金を用意し、誰が応募者に手渡すかまで決めておく必要があります。この段取りは来社面接の受け入れ手順が前任者しか知らないときに整理しています。
どこに書くか。求人票と面接案内メールの2か所
決めた内容は、2か所に書けば足ります。
求人票には、支給する場合のみ簡潔に書きます。「面接交通費支給(上限あり)」程度で十分で、金額の詳細まで書く必要はありません。支給しないと決めた場合、求人票にわざわざ「交通費支給なし」と書く会社は多くありませんが、応募者から繰り返し質問が来るようなら明記したほうが問い合わせ対応は減ります。求人原稿を直すタイミングで他の項目もまとめて見直すなら、求人原稿を刷新するときに直す7か所を参照してください。
面接案内メールには、必ず書いてください。ここが実質的な会社の約束になります。
- 支給する場合:「当日、交通費として一律◯◯円をお渡しします」または「交通費は実費(上限◯◯円)を後日お振込みします。恐れ入りますが、ご来社時に経路をご記入いただきます」
- 支給しない場合:記載しない。聞かれたときに答えられるよう、社内の回答文だけ用意しておく
「場合によっては支給します」という曖昧な書き方は避けたほうが無難です。応募者が期待して来社し、当日出なかったときの印象が悪くなりやすいためです。
進行中の応募者で対応が割れていたときの揃え方
前任者が個別に判断していた場合、同じ選考ステップで支給された人とされていない人が混在していることがあります。この場合の考え方は、原則として応募者に不利になる方向へは揃えないことです。
具体的には、次の順で処理します。
- すでに支給した人への返金請求はしない
- 同じ段階まで進んでいて未支給の人には、新しい基準に照らして支給対象なら支給する(遅れたことを詫びる一文を添える)
- 新基準で支給対象外になる人には、過去の支給実績に触れず、これから案内する選考について統一した条件を伝える
応募者から「前の担当の方には出ると聞いていた」と言われた場合は、否定せずに事実確認に回ります。前任者との口頭のやり取りは記録が残っていないことが多く、その場で白黒つけようとすると関係が悪化します。初動の進め方は応募者に「前の担当者とは話が違う」と言われたときの対応にまとめています。
経理への精算の回し方
現場で止まりやすいのが、支払った後の処理です。採用担当が不在だと、面接当日に現金を渡した人と、経費を処理する人が別になります。
決めておくことは3つです。
- 勘定科目を経理に確認する(採用関係費、旅費交通費など、会社によって運用が違います)
- 誰が精算書を起票するか(面接に立ち会った人か、管理部門でまとめるか)
- いくらまでなら誰の承認で支払えるか
3つめは、交通費だけの話ではありません。採用に関する決裁の線が曖昧なままだと、交通費以外の場面でも同じ詰まり方をします。募集開始から条件提示までの決裁者を1枚にまとめる方法は採用の可否を誰が決めるかを、紙に1枚で決めておくで整理しています。
決めた内容は、A4の半分で構いません。「支給対象:最終面接のみ/上限:◯◯円/方法:当日現金/起票:管理部門」と書いて、面接案内メールのテンプレートと一緒に保存しておけば、次に担当が代わっても同じ回答ができます。
交通費の基準がない、は氷山の一角です
面接の交通費で詰まったということは、おそらく他にも「前任者の頭の中にしかなかったルール」がいくつも残っています。合否の基準、媒体の契約条件、面接官への依頼の仕方。ひとつずつ答えを出していけば復旧できますが、通常業務と並行して進めるには時間がかかります。
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