顧問社労士に採用業務をどこまで頼めるか
採用担当が退職して求人が止まったとき、「うちには顧問の社労士さんがいるから、採用もある程度みてもらえるのでは」と考える会社は少なくありません。毎月顔を合わせていて、労務のことは何でも相談できる相手ですから、自然な発想です。
ただ、実際に依頼してみると「そこまでは業務範囲外です」と言われて止まることがあります。断られたのではなく、社労士という職種の業務の組み立てが、採用実務とは別のところにあるためです。この記事では、顧問社労士に相談しやすいことと、通常の顧問業務の外にあることを分け、追加で頼む場合の費用の出方と、契約前に確認しておきたい質問を整理します。
社労士の業務は「手続き」と「ルール」が中心
社会保険労務士は、労働社会保険の手続き書類の作成と提出代行、就業規則や労働者名簿などの帳簿書類の作成、そして労務管理に関する相談を担う国家資格です。顧問契約の月額料金は、主にこの範囲の継続的な対応に対して支払われています。
採用に関わる場面でも、入社手続きや労働条件の書面は明確にこの範囲に入ります。一方で、求人媒体の管理画面を操作したり、応募者にメールを返したり、面接の日程を調整したりする業務は、資格の専門領域とは別の作業です。顧問社労士に頼みやすいかどうかは、「法令やルールに関する判断か」「日々の稼働が必要な作業か」で線が引かれることが多いと考えると整理しやすくなります。
相談しやすいこと/通常の顧問業務の外にあること
| 業務 | 顧問社労士への依頼のしやすさ |
|---|---|
| 労働条件通知書・雇用契約書の雛形作成と改定 | 相談しやすい。顧問料の範囲内のことも多い |
| 求人票の労働条件表記が法令に沿っているかの確認 | 相談しやすい。ただし原稿の書き換えまでは別 |
| 入社時の社会保険・雇用保険の資格取得手続き | 依頼しやすい。手続き代行は本来業務 |
| 試用期間・有期契約・固定残業代の設計 | 相談しやすい |
| 就業規則や賃金規程との整合チェック | 相談しやすい |
| 求人媒体の選定・掲載・掲載中の運用 | 通常は範囲外 |
| 応募者への返信、面接日程の調整 | 通常は範囲外 |
| スカウト送信、母集団形成 | 通常は範囲外 |
| 面接の実施、合否の判断 | 通常は範囲外 |
| 後任候補者の紹介 | 有料職業紹介事業の許可が必要。許可を持つ事務所もある |
上半分は「書面と法令」、下半分は「日々動き続ける作業」です。採用が止まっている会社が困っているのは、たいていの場合は下半分です。求人票の表記が法令に合っているかは重要な論点ですが、それが直っても応募者対応が再開するわけではありません。表記の確認項目については求人票の労働条件の書き方が今のルールに合っているかにまとめています。
なお、内定承諾から入社日までの業務は採用側と労務側の境界が曖昧になりやすい領域です。ここをどちらが持つかを決めておかないと、社労士にも社内にも宙に浮きます。切り分け方は採用と入社手続きの担当を、どこで区切るかを参照してください。
追加で頼む場合、費用はどう出るか
顧問の範囲を超える依頼をする場合、費用の出方はおおむね次の4つに分かれます。金額は事務所の規模や企業の従業員数によって差が大きく、公表されていないことも多いため、必ず見積もりを取ってください。
| 費用の形 | 内容 | 向いている依頼 |
|---|---|---|
| 顧問料の範囲内 | 追加請求なしで相談に応じる | 単発の質問、簡単な表記確認 |
| スポット報酬 | 1件ごとの作成・改定料金 | 雇用契約書の雛形作成、就業規則の改定 |
| 顧問料の増額 | 月額に上乗せして範囲を広げる | 手続き件数が継続的に増える場合 |
| 時間単価 | 稼働時間に応じた課金 | 説明会同席など稼働を伴うもの |
注意したいのは、顧問料の範囲内で答えてもらえる質問と、有償になる作業の境目が、契約書に細かく書かれていないことがある点です。担当者の善意で答えてもらっているうちは問題になりませんが、依頼量が増えると関係がぎくしゃくします。採用まわりで継続的に頼みたいことが出てきた時点で、一度範囲を確認し直しておくほうが後々穏やかです。
社労士に確認しておきたい質問
顧問社労士との面談の場で、そのまま聞ける形にしました。
- 求人票の労働条件表記の確認は、顧問料の範囲内ですか。有償なら1件いくらですか
- 労働条件通知書・雇用契約書の雛形は提供いただけますか。法改正時の改定は自動で連絡が来ますか
- 入社手続きを依頼する場合、入社日の何日前までに何を送れば間に合いますか
- 有期契約の更新上限や固定残業代の記載について、求人原稿の段階から相談できますか
- 求人媒体への掲載や応募者への連絡は、お願いできる業務ですか(多くの場合は範囲外です)
- 後任候補者の紹介は可能ですか。有料職業紹介の許可はお持ちですか
- 採用や人材育成に関する助成金の相談はできますか。申請代行は別料金ですか
- 質問から回答までの目安日数と、緊急時の連絡手段を教えてください
5と6は、期待値をそろえるために先に聞いておくと、双方が気まずくなりません。7については採用の外部委託費に使える助成金はあるのかで制度の考え方を整理しています。
「正しさの担保」と「実務の稼働」は別の役割
顧問社労士は、書面と手続きの正しさを担保してくれる相手です。採用担当が不在の会社にとって、労働条件通知書が古い書式のままだったり、入社手続きが漏れていたりするリスクを抑えられるのは大きな価値があります。ここは積極的に頼ってよい領域です。
一方で、止まった求人を再開し、応募者に返信し、面接を設定し、後任を採用して育てるのは、日々手を動かし続ける仕事です。専門性の種類が違うため、社労士に頼めないことは能力の問題ではなく、役割の違いと考えるのが実態に近いといえます。
整理すると、社労士に任せるのは「書面と手続きが法令に沿っているか」、採用実務を任せる相手に任せるのは「募集から入社までを動かし続けること」です。この2つを1社に寄せようとすると、どちらかが中途半端になりやすくなります。外部委託の線引き全般については採用業務を社内と外部でどう分けるかもあわせてご覧ください。
採用が止まっている状態を動かすには
顧問社労士に確認した結果、「求人の再開と後任の採用は社内でやるしかない」となった会社は多いはずです。その状態で総務や管理部門が兼任で抱え込むと、本来業務と採用のどちらも遅れやすくなります。
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